抒情歌

2017年に設立した同人サークル抒情歌のブログです。主に文学フリマで『グラティア』という文芸同人誌を頒布しています。

日本語ヒップホップ - 不可思議/wonderboy

文=寝惚なまこ 滾々と湧き出る無力感の源泉は交わりのある人々の眼差しではなく鏡越しの充血した両眼にこそあると気付いたのは数年前のこと。文芸創作にうつつを抜かし、履修した講義を悉くサボって喫茶店に籠りラップトップと睨み合う日々を過ごしていた大…

【連載:ゲームと選択肢】第三回 『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』

文=一条めぐる(@ichijo_meguru)(同人サークル「あるふぁちっく」主宰) こんにちは、一条めぐるです。 前々回の『WILL』の記事、前回の『OneShot』の記事の両方でたびたび言及してきたように、私は「選択」というテーマにこだわってきました。今回もそ…

美意識のセクト・百合文化

文=寝惚なまこ 筋張ってツンとひるがえった白い花被、その中心部から伸びるしたたかな花柱と先端で昏く貪欲な威光を放つ花頭の雌蕊。種々あるユリ科の花々のメルクマールとも言うべき身の締まるような気位の高さと手招きするようなおどろおどろしい憎悪をの…

アニメソング - 大槻ケンヂと絶望少女たち「林檎もぎれビーム!」

文=竹宮猿麿 www.youtube.com www.youtube.com ゼロ年代最後の年の2009年、筆者はまだ中学生で、社会や文化の雰囲気はどこか薄暗かった。当時の筆者は「将来はサラリーマンになりたい」と漠然と思っていた。サラリーマンは「ふつうの人間」だけが成れる…

悪いオタクとは何か、そしてこのオタクソングがすごい!という話

文=秋津燈太郎 先日、印象に残った今年のオタクソング(アニソン、ゲーソン、声優の楽曲など)を紹介してくれと悪いオタクの友人に頼まれた。どうせブログのネタもないしざっくり紹介するかと思っていたのだが、どのような基準で選んでいるのかを示さないと…

【連載:ゲームと選択肢】第二回 『OneShot』

文=一条めぐる(@ichijo_meguru)(同人サークル「あるふぁちっく」主宰) こんにちは、一条めぐるです。 今回は、前回の最後で言及した「選択すること」について『OneShot』というゲームの紹介を交えながら書きます。 www.youtube.comストアページはこち…

第二十七回文学フリマ東京出店のおしらせ

文=榊原けい 気付けば気温もすっかり寒くなり、私の下宿の薄い壁からはひりつく冷気と灯油売りの物悲しい音楽が入り込んでくる、そんな季節になりました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。 さて、今回は同人誌頒布に関するお知らせです。 この度、われわ…

アニメソング - 岡崎律子『For フルーツバスケット』『小さな祈り』

文=竹宮猿麿 www.youtube.com www.youtube.com アニメ版『フルーツバスケット』(2001年)の再放送をはじめて観たのは小学五年生の頃で、そのときにオープニングテーマとエンディングテーマを歌っていたのが今は亡き岡崎律子さんだった。 『フルーツバ…

技術同人誌 - 技術書典5と純肉本

文=秋津燈太郎 近況ですが、10/8(月)に池袋サンシャインの文化会館で開催された技術書の即売会、「技術書典5」に行ってきました。 技術書とは(基本的に)IT技術に関する情報を掲載している書籍でありまして、プログラミング言語の入門書からニッチな分野の技…

ヒップホップ音楽 - PHARAOH『ДИКО, НАПРИМЕР』

文=榊原けい www.youtube.com 以前の記事で 「検索ボックスに「ロシア ヒップホップ」や「russian hiphop」などと打ち込んで色々な曲を聴いてみました。 とりあえず、聴いたものの中でいいなと思ったものをごく簡単に、何回かに分けて紹介していこうと思い…

【連載:ゲームと選択肢】第一回 『WILL-素晴らしき世界-』

文=一条めぐる(@ichijo_meguru) はじめまして、一条めぐると申します。普段は別の同人サークル『あるふぁちっく』の主催を務めています。今回、旧来の友人である竹宮猿麿氏から執筆のお誘いをいただきました。ちょうど趣味について綴るブログが欲しいな…

アニメソング - bôa「Duvet」

文=竹宮猿麿 www.youtube.com 筆者の周りにはいつもアニメ好きな友人たちがいたし、今でもそうだ。 これには世代の問題もあるだろう。筆者の世代(1994年前後)は、中学生になるかならないかという時期に「灼眼のシャナ」(2005-2006年)、「…

UTAUオリジナル曲 『ホワイトナイト』

文=榊原けい このところ、実家付近の景色をよく夢に見る。 現れるのは薄暗い公共施設や外界の音が遮断された雑木林――私が不登校のころに彷徨っていた場所ばかり――である。 治療のためと言い張ってアルバイトで生活の諸経費を稼ぎながら大学へ通うことで何か…

活動日誌 - あいみょん『君はロックを聴かない』

文=秋津燈太郎 どうも、抒情歌の秋津燈太郎です。つい昨日、抒情歌内で会議が開かれましたので、本日はその報告をいたします。 文フリの報告ひとつすらしないのに今更かよと思われるかもしれませんが、それというのも日頃から活動を応援してくださっている方…

Web漫画 - のむぎ『コンビニ弁当は腐らない』

文=竹宮猿麿 コンビニ弁当は腐らない-のむぎ 【『コンビニ弁当は腐らない』とは】 『コンビニ弁当は腐らない』は、自作漫画・小説のコミュニティサイト新都社で2009年頃から掲載されている未完結の漫画です。ジャンルとしては「近未来SF」に該当します…

文芸同人誌 - 短歌同人誌『ひとまる』

文=秋津燈太郎 tanka-hitomaru twitter.com ■短歌同人誌『ひとまる』とは HPや同人本誌に公式の経歴がないので私の知りうるかぎりの情報になるが、1998年以降に産まれた同世代歌人たちによる同人サークルで、メンバーはそれぞれ早稲田短歌会や九大短歌会など…

Web漫画 - くらっぺ『春出汁』

文=竹宮猿麿 春出汁-top 【『春出汁』とは】 『春出汁』は自作漫画・小説のコミュニティサイト新都社で2009年から掲載されている漫画で、完結はまだしていません。 作者はくらっぺ(倉金篤史)さんという方で、現在は月刊漫画雑誌コミックリュウで『PiN…

Web漫画 - 『はるこ少女期』

文=竹宮猿麿 はるこ少女期 【なぜWeb漫画について書こうと思ったか】 Web漫画のなかには漫画雑誌に掲載されているプロの漫画に劣らず面白い作品があるにもかかわらず、それらはネット社会のなかでもなぜかあまり知られていません。 その理由のひとつは「色…

ジェラテリア・イル・ブリガンテと、セイヨウヤマモモの蜂蜜

文=秋津燈太郎 (https://gelateriailbrigante-blog.at.webry.info/200811/article_1.html) 料理の評価は状況や文脈に応じておこなうべきだ。 要するに、繊細な懐石料理も大味な駄菓子もそれぞれの領域において鑑賞すべきであって、食べる側の意識と状況次…

時事ネタ 桃

文=榊原けい 風に漂う沈丁花やきんもくせいの香のかぐわしさに季節のうつろいを感じられるようになり、齢二十をいくつか過ぎてやっと言語化の難しい匂いの領域に少しずつ魅せられ始めた私にとって、スーパーマーケットの青果コーナーに立ち寄った折に旬を迎…

ヒップホップ音楽 - Каста『Радиосигналы』

文=榊原けい www.youtube.com こんにちは。 少し前「そういえばロシアのラップを聴いたことがないな」と思い立ち、検索ボックスに「ロシア ヒップホップ」や「russian hiphop」などと打ち込んで色々な曲を聴いてみました。 とりあえず、聴いたものの中でい…

ロック音楽 - NICO『Chelsea Girl』

文=秋津燈太郎 youtu.be あなたの腕のなかに横たわっているとき、あなたはときおりわたしに尋ねる。歴史上のどんな瞬間に生きていたかったかと。コレットが死んだ週のパリ、とわたしは答える。一九五四年八月三日のパリ。数日後には国葬が営まれ、墓のかたわ…

解説動画 - ガガンボ『魔理沙と学ぶ東方毒キノコ講座』

文=竹宮猿麿 www.nicovideo.jp www.youtube.com 筆者は最近、人間社会になかば見切りをつけ、自然の世界に注目しています。醸造を家業とする一族に生まれ、小学生の頃に粘菌と南方熊楠を知り、高校生時代に石川雅之の漫画『もやしもん』を繰り返し読んでい…

時事ネタ - 日傘男子と傘の歴史

文=秋津燈太郎 www.asahi.com 20年前に比べて最高気温の平均が4〜5℃も上昇しているとの噂を聞いて、さすがに日傘を導入しようと思った次第である。ひとであれモノであれ、自分と関わるものは多少なりとも歴史を知っておいたほうが良いという持論があるので、…

クラシック音楽 - グレン・グールド『モーツァルト:ピアノソナタ第八番 イ短調 K. 310(第一楽章)』

文=竹宮猿麿 www.youtube.com 最近はグレン・グールドが演奏するモーツァルトを聴きました。筆者は専門的な音楽教育を受けておらず、クラシック音楽についてはほとんど知識がありませんが、なぜか昔からグレン・グールドの演奏するものだけは気に入っていて…

短編アニメ - デビッド・オライリー『おねがい なにかいって』

文=竹宮猿麿 vimeo.com 最近、David O'Reillyの『Please Say Something』という短編アニメーションを観ました。2009年の作品なので古いものだと言えなくはないですが、さいわいにもまだ全然楽しんで観ることができました(そういうものを、もしかしたら…

琉球文学 - 島尾敏雄『琉球文学論』第2章

文=秋津燈太郎 第二章 琉球語について 1.琉球弧の範囲 琉球列島の範囲としては奄美、沖縄、宮古、八重山の島々と限定することができるが、それらの島々の呼称については一考の余地がある。たとえば、「琉球」という呼び名は中国側からの呼称であるゆえに現…

琉球文学 - 島尾敏雄『琉球文学論』第1章

文=秋津燈太郎 琉球文学についての講演を文字に起こした『琉球文学論』は、島尾氏の論理の曖昧さに加えて書き言葉としての文体が粗雑なこともあり、とにもかくにも読みづらい。とはいえ、彼自身の主張はさておいて、書かれている内容の資料的価値はたしかに…

あかしの裏返し

文=榊原けい 目の前のだれかが、あなたに作品の感想を話す。 あなたは、その人の口ぶりに、あるエピソードにいたく共感していることや、奇妙な言い回しを繰りかえし用いる癖や、特定の小道具にたびたび言及する執着といったものを発見する。するとどうだろ…

創刊の辞(『グラティア vol.1』所収)

〈作者〉という概念がひとびとの文学観を支配し、解釈といえば作品にこめられた〈作者〉の気持ちやテーマを読みほどくことだった当時のなかで、批評家ロラン・バルトが提唱したのが「作者の死」でした。「文学ないしテクストは自律しているため〈作者〉とは…