抒情歌

2017年に設立した同人サークル抒情歌のブログです。主に文学フリマで『グラティア』という文芸同人誌を頒布しています。

【連載:ゲームと選択肢】第三回 『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』

文=一条めぐる(@ichijo_meguru)(同人サークル「あるふぁちっく」主宰)

 

こんにちは、一条めぐるです。

前々回の『WILL』の記事、前回の『OneShot』の記事の両方でたびたび言及してきたように、私は「選択」というテーマにこだわってきました。今回もその観点を引き継ぎつつ、去る2017年3月16日に発売された『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』のリメイク版について紹介したいと思います。

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この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』は1996年12月26日に発売されたアドベンチャーゲームです。WindowsがOSの主流になる前の時期、つまりは国産PCが世界に名を馳せていた時期の作品で、PC-98用アダルトゲームとして発売されました。

詳細はWikipediaに譲るとしますが(ネタバレだらけですが一番詳しく書いてあります)、ざっくり言えば「並行世界をめぐりながら真相に辿り着く」ことを目指すゲームです。この作品は二部構成で、第二部では並行世界を移動できません。まっすぐにシナリオが展開されていきます。なので、今回私が取り上げるのは主に第一部「現代編」のみとなります。

 

第一部の概要は、以下の画像を参照してください。

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【ゲームにおける選択肢とプレイヤー】 

「選択肢を選ぶ」とは「主人公が取るべき行動を、プレイヤーが選択する」ということです。

アドベンチャーゲームではどの選択肢を選ぶかでストーリーが分岐していきますし、美少女ゲームではどの選択肢を選ぶかで主人公が誰と結ばれるのかが決定されていきます。

ところでこの選択、ゲーム内では主人公が行っていることになっているため、プレイヤーが選んだ選択肢の責任はゲーム内では主人公が背負うことになります。

そのため、通常のゲームでは、こちらは選択肢を選ぶ主体であるにもかかわらず、ゲームの世界からすればどこまでいっても無関係な「よそもの」であると感じざるをえません。

 

 

【選択肢の観点から見る『YU-NO』の魅力】

しかし、『YU-NO』ではそうした疎外感を味わわずにすみます。 

YU-NO』のシステムでは、アイテムの宝玉をフローチャート上に置くと「宝玉セーブ」ができ、フローチャート上に置かれた宝玉を選択すると「宝玉セーブ」を行ったときの時間と場所まで戻ることができます。そのため、どうも重要らしい選択肢があらわれたとき、プレイヤーはおのずと「宝玉セーブ」をすることになります。

そのようなシステムであることから、フローチャート上にはプレイヤーが選択肢を選んで進んできた道のりが刻まれていくことになります。

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ところで『YU-NO』の主人公はとある事情から「並行世界を移動できる」という能力を持っているのですが、ここが『YU-NO』の面白いところで、主人公もまたフローチャートの存在を認識しています。 

とある女性キャラクターのストーリーを進めていくといずれそのキャラクターが死ぬのですが、彼女の死は『YU-NO』においては覆せない現実ではないため、主人公は「彼女が生きている」世界を見つけようとします。

つまり、主人公は彼女の死に絶望したあと、その人の死を回避するためにかつて「宝玉セーブ」をしたところまで戻り、選択をやり直そうとするわけですが、これはプレイヤーが行う「セーブ&ロード」と構図がほとんど変わりません。主人公は私たちプレイヤーと同じ行動をしているのです。 

そのように、フローチャートを前に主人公と自分の認識が重なるところに『YU-NO』の魅力があると思います。

 

 

【『YU-NO』はあなただけのゲーム体験を創出する】

YU-NO』は人によって攻略順(ゴールに到達するための順序)に違いが出るゲームです。

もちろん、攻略順に違いが出るアドベンチャーゲームは他にもたくさんあります。

しかし、『YU-NO』の場合は攻略順によって、それぞれの問題の解決方法に気付くタイミングが異なってきます。進めていたルートで、思いがけず別ルートの解決方法が見つかることも珍しくありません。その解決方法を試すタイミングも、当然、人によって異なります。 

そのように、プレイヤーの選択がゲーム内の展開を大きく左右するという点では、『YU-NO』はプレイヤーに自分だけのゲーム体験を与えてくれるゲームだと思います。 

 

 

【終わりに】

YU-NO』は、アドベンチャーゲームの一つの完成形だと思います。システムと物語を上手く結びつけ、プレイヤーと主人公の認識をリンクさせた上で、こちら側にあらためて多彩な選択肢を自覚させ、試行錯誤と決断を促してくれるからです。

自分が選んだ選択肢の責任を取りたいと思っている私にとって、主人公に対する没入感を高め、選択結果を真剣に反映してくれる『YU-NO』のシステムはとても魅力的でした。

あと、並行世界を行き来して行き詰まりを打破するカタルシスが面白かったです。そうした感覚はほかのタイトルでは中々味わえません。古いゲームだということを忘れて「いわゆるメタフィクションゲームでなくてもプレイヤーをゲームに巻き込めるんだな」と感心しました。 

 

ところで、今まで紹介してきた作品は、ゲーム内で示された選択肢を選ぶ、もしくは組み合わせるというかたちで進行するものばかりでした。

しかし、ゲーム内の選択肢を無視するということはできないのでしょうか? もしゲームが求めてくる選択と、プレイヤーの取りたい行動が一致していなかったら?

 

次回は、こういった問題に踏み込んだ作品を紹介したいと思います。

それでは。