抒情歌

2017年に設立した同人サークル抒情歌のブログです。主に文学フリマで『グラティア』という文芸同人誌を頒布しています。

技術同人誌 - 技術書典5と純肉本

文=秋津燈太郎

 

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近況ですが、10/8(月)に池袋サンシャインの文化会館で開催された技術書の即売会、「技術書典5」に行ってきました。

技術書とは(基本的に)IT技術に関する情報を掲載している書籍でありまして、プログラミング言語の入門書からニッチな分野の技術を詳説したものまで、多くのサークルから様々な技術書が販売されています。

2016年にはじめて催されて今年で3年目になりますが、サークル数、来場者数ともに順調に伸び続けているようです。今回はいつにもまして熱気がすごく、入場待機列は建物の外まで伸びる有様で、開始からだいぶ経った13:00過ぎに到着した私でさえ10分ほど待たなくてはなりませんでした。

www3.nhk.or.jp

私は、セキュリティを意識したWebアプリのテスト技法、発表されてから日の浅いプログラミング言語Juliaの入門書、ハッカーに焦点を当てた米国ドラマ『MR.ROBOT』に出てくるプログラムの解説本などなどの本を購入しました。そのなかでもとりわけ興味を惹かれ、なおかつIT技術に馴染みのない方にもわりと関係しそうな「純肉本」という同人誌を本日は紹介させて頂きます。

 

そもそも純肉とは?

純肉とは、動物の幹細胞を培養して造られた肉の別称です。

糞便汚染や水資源の大量消費といった環境問題を解決し、ことによれば食中毒すら改善させうるとして注目を集めています。200を超える世界の企業が研究を行なっており、牛はもちろん、鳥や魚でも実験が進んでいるとのこと。

アメリカではクリーンミートと呼ばれている培養肉ですが、日本ではどうして純肉なのでしょう?それは、純粋培養肉の研究および作成を目的とした有志のコミュニティShojinmeat Projectが、カタカナ語をこれ以上増やしたくないという思いから、あえて「純肉」という呼び名を作ったからです。察しの良い読者はお気づきでしょうが、まさしくShojinmeat Projectこそ「純肉本」の発行元に他なりません。(Shojinmeat Projectの概要については次章で説明いたします)

wedge.ismedia.jp

欧米を中心に世界各国で注目を集めているその純肉ですが、ビル・ゲイツをはじめとする多くの著名人が開発に巨額を投じています。先述のとおり環境問題や食糧難を解決する可能性を秘めているからでしょうが、分野としてはまだまだ発展途上で、生産量は少なく、それゆえに一般大衆が気軽に買える値段ではありません。それでもなお、2013年時点では3400万円だった純肉のハンバーガーの値段が今後は1200円ほどになると予測されているので、我々が純肉を気軽に味わえる日が来るのもそう遠くないのかもしれません。私も早く食べてみたい。

 

Shojinmeat Projectとは?

2018/10/17現在、公式サイトがサーバー移管のため停止しているようなので、CAMPFIREに掲載している概要から簡単に引用します。詳細を知りたい方は下記のページをご覧ください。

camp-fire.jp

"Shojinmeat Project"は、2014年に研究者、バイオハッカー、学生、イラストレーターらが集まり、動物を殺さずにタンクの中で筋肉細胞を育てて作る食肉、「純肉(培養肉)」の実用化を目指すために結成された組織です。当初はメンバーの実家のお風呂場で実験したり、メンバーがバイオスペースとして供用していた個人宅を借りて培養液を試作していました。

 世界中にメンバーが点在しており、東京近郊に住んでいるメンバは週に1回の頻度で実験手法・結果などの情報を交換しているようです。

 

fabcross.jp

 

純肉本

さて、ようやく本題の純肉本です。純肉本とはShojinmeat Projectが年2回発刊している機関誌で、純肉の開発進捗や代替食料の現状についてのレポートが主に掲載されているようですね。

今回私が購入した純肉本は2018年の夏号でして、純肉をとりまく環境や、宇宙での人口肉培養についての考察、純肉料理に合うワインの選定シミュレーション、自宅での純肉作成方法をまとめた漫画などが収録されています。門外漢の私にとってはどの記事も新鮮で読み応えがありましたが、とりわけ考えさせられたのは「純肉の「おいしさ」の重要性」という記事でした。

何にせよ、人間の手を加えた養殖物・人工物よりも、天然物・素材の良さを活かしたものを我々は好みがちですし、その嗜好が人工物へのバイアスを生んでもいます。やせ細った天然の鰻と、立派に肥えた養殖の鰻の写真を知人に見せてどちらが天然だと思うかと尋ねてみたら、ガリガリの天然物なんてありえないから後者だと豪語されたこともあります。天然物、人工物に対するバイアスの存在をしめす好例でしょう。(人口食料の極みであるカロリーメイトで不満なく1ヶ月暮らせる私も、鰻の味に関しては天然の方が好きですけど笑)

当記事の筆者の松吉・間島さんは、おいしさは食物的要因や人的要因により判断されると踏まえたうえで、さきほど私が例示したような心理的な要因も「おいしさ」に影響を与えると述べています。

 

純肉のおいしさも人的要因と食物的要因から決まるとすると、従来の肉(家畜由来)に比べ、純肉は人的要因によって悪影響を受けることが予想される。人間には「新規恐怖」という、今まで食経験がないものを食べることを躊躇する行動が本能的に具わっている。

……

また、純肉が人工的に作られたものと強く認識されることも、純肉のおいしさにとっては悪影響かもしれない。真実は別として、「天然ものだからおいしい、養殖は天然よりも尖ったもの」という個室した考えを持つ人は一定数存在する。純肉の話に置き換えると、従来の家畜肉は天然・純肉は養殖、のように認識されてしまう未来も容易に存在できる。

 

 

新規恐怖に対して松吉・間島さんは社会に浸透すれば解決するらしく、では、そのためにどのような努力ができるかというと、純肉の食事前後に「おいしさ」を提供することだと述べています。つまり、純肉の優れた形状、色調、光沢により引き起こす「食物新規性嗜好」で食前の新規恐怖は打ち消して、さらに実際に舌で感じる味もぬかりなく上等にすれば良いというわけです。

そして、純肉にはそれを可能にするポテンシャルを秘めているとも言います。

もし将来的に細胞レベルで純肉が設計できるようになれば、様々なニーズに応える純肉を培養できるようになるだろうし、個人でもそれが可能であれば、そのひとの好みに合わせた純肉も作成できるだろうということです。

 

 

おわりに

いかがでしたでしょうか。培養肉について不勉強なこともあり、至らない点も多々あったと思いますが、純肉の魅力や熱さが少しでも伝わったのならそれに勝る喜びはございません。

まだまだ発展途上の純肉開発ですが、自分だけの最高の純肉を追い求める個人培養者だったり、好きなひとの肉を培養して食す変態も将来的に現れるのかもしれませんね。たのしみです。