抒情歌

2017年に設立した同人サークル抒情歌のブログです。主に文学フリマで『グラティア』という文芸同人誌を頒布しています。

【連載:ゲームと選択肢】第一回 『WILL-素晴らしき世界-』

文=一条めぐる(@ichijo_meguru

 

はじめまして、一条めぐると申します。
普段は別の同人サークル『あるふぁちっく』の主催を務めています。
今回、旧来の友人である竹宮猿麿氏から執筆のお誘いをいただきました。
ちょうど趣味について綴るブログが欲しいなぁと考えていたのもあり、快諾いたしました。

何を記事のトピックスにするか考えながら、自室のPCデスク前で船を漕いでいましたが、その時間は1分もなかったと思います。
というのも、私はゲームを布教するのが大好きです。
面白い作品について、誰かと感想を共有したくなりますし、さらに面白いと思った作品が他人にとってもそうであるならば、これ以上の喜びはないわけです。
なので、ゲームについて書きます。

 

ゲームにはじめて遭遇した頃や状況は、世代によって様々だと思います。
私のゲーム体験のはじまりは幼稚園に通っていたころ、父親が叔父より引き取ってきたというスーパーファミコンでした。
大量のタイトルと共に譲り受けられたのもあって、『ロマンシングサガ3』や『ドラゴンクエストⅢ』や『クロノトリガー』などの名作RPGを父親がよくプレイしていました。
人のプレイを見ながら、あーだこーだ言うのがとても楽しく、また唯一無二の親子間交流でもありました。
そうやって多感な幼少期をゲームに囲まれていたので、ひとよりも思い入れが大きめです。

最近は社会人になり、お金や時間をそこそこ確保できるようになったので、アメリカのValve Corporationが運営するゲーム販売プラットフォーム『Steam』やPS4を利用し、自分でプレイすることも増えてきました。

 

これから皆さんに紹介したいのは、主にインディーズと呼ばれる個人や少人数グループによって制作されたゲーム群です。

インディーズはメジャーなゲーム群よりも、掘って掘って輝きを秘めた原石を探す楽しさがあります。ハズレを引くこともありますが、それもまた醍醐味です。

今回ご紹介するのは、中国のクリエイターが製作した

『WILL: A Wonderful World(日本語版題:WILL-素晴らしき世界-)』です。

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公式サイトはこちら
日本語での紹介は電撃オンラインのこの記事が参考になるかと思います。
日本向けのパブリッシャーであるPlayismから、日本語版が購入可能です。リンクはこちら

www.youtube.com

 

このゲームは、ジャンルとしてはアドベンチャーゲームになるかと思います。
このジャンルは古くから存在しています。
文字を読み進めて物語を楽しんでいくシンプルなゲームで、大半の作品においては選択肢以外にプレイヤーの干渉の余地がありません。
単純に、プレイヤーが展開をコントロール出来る小説と思ってください。

 

人生の転換点に立たされたとき、あなたもまたどう進んでいくか選択すると思います。
転換点はあなたの生き方を変えるかもしれませんし、何も変えないかもしれません。
この作品には、そんな転換点に立たされる(というか、立たされまくる)12人のキャラクター達がいます。
プレイヤーは、選択によってどん詰まりになってしまったキャラクター達の手紙を受け取り、それを読み解くことで、彼らに何が起こってしまったのか追体験します。

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そしてより良い結末に導くために、出来事を入れ替えることによって問題を解決します。
ときには別キャラクターの手紙と入れ替えることで、キャラクターに本来しなかった別の行動をさせることもできます。
プレイヤーはそういう力を持つ神様なんです。不思議な立ち位置ですね。

 

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面白いのが、画像のように猫の行動を人間側に入れ替えると、意味が変わってくるところです。
猫が持ち上げたはずの干し魚を人間側に入れると、どこからともなく”くさや”が飛び出します。
およそ荒唐無稽な状況ですが、これによってピンチを脱出できるようになるわけです。
その他にも銃をオモチャにすり替えたり、男側にワンピースを着るシーンを入れることで女装させたり……と、様々な方法をもって、状況を打破していきます。
ハッピーエンドを迎えるために、因果関係を入れ替えるわけですね。これが単純ながら面白いんです。
さながらパズルのようにワードをはめかえるだけで、物語がガラリと変わります。
上手く解決できたときはやってやったという達成感と、次はどうなるのかといった物語への興味が尽きません。
自然に次へ次へと進めてしまうため、プレイすると手が止まらなくなります。徹夜には注意しましょう。

 

そもそも選択をやり直せない私たちにとって、あそこでこうしていれば……という後悔はつきものです。
『WILL』は、ときに時間を巻き戻し、再選択することによって解決を試みますが、それとは逆に、選択がいかに重い決断であるか問い直す作品もあります。
プレイヤーが動けば動くほど状況が悪化していく『かまいたちの夜』もその一つかと思います。
こちらは雪山のロッジにおける殺人劇なので、私たちが到底遭遇するシチュエーションではありません。
ですが、プレイヤーとして参加する以上は責任を持たざるをえなくなります。舞台がゲームであっても、選択するのは常にあなたなのです。
この『WILL』も例外ではありません。

ときには残酷な決定をすることもあるでしょう。
砂をかむようなざらりとした不快感が、あなたの中に渦巻く瞬間があるかもしれません。
しかし、こういった”選択”自体を問うのは、最近のインディーズゲームでは珍しくないのです。

次の記事では、この選択することについて、もう少し詳しく語りたいと思います。


誤解のないように言うと、『WILL』にはきちんとエンディングが用意されています。
すべての手紙を読み解き、神様を含めた世界の真実に触れたときの読後感も素晴らしく、きっと思い入れのある作品になるかと思いますので、ぜひプレイしてみてください。


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この作品はザッピングと呼ばれるシステムを採用しています。
アドベンチャーゲームの発展とこのシステムは関わりがとても深く、製作者たちによるインタビュー記事でも言及されています。
興味があるかたは読んでみてください。