抒情歌

2017年に設立した同人サークル抒情歌のブログです。主に文学フリマで『グラティア』という文芸同人誌を頒布しています。

活動日誌 - あいみょん『君はロックを聴かない』

文=秋津燈太郎

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どうも、抒情歌の秋津燈太郎です。つい昨日、抒情歌内で会議が開かれましたので、本日はその報告をいたします。

文フリの報告ひとつすらしないのに今更かよと思われるかもしれませんが、それというのも日頃から活動を応援してくださっている方々に、お前らは一体なにがしたいん?どこを目指しているんだね?まだ解散してないの(笑)?などと頻繁に尋かれるからでして、まあ、知るかよ死ねとしかぶっちゃけ答えようがないのですが、活動の様子をご覧に入れて、せめて雰囲気だけでも伝わればいいなぁと目論んでいるわけです。

主な議題は「グラティアのレイアウト」と「あいみょん」です。まずはレイアウトについて。

我々は春と秋の文フリの年2回、グラティアという文芸評論同人誌を発行しています。主に文学を中心とした芸術全般への評論や、詩や小説などの文学作品を掲載しており、ラテン語で「恩寵」を意味する誌名のように、読者のより良い生活に少しでも寄与できればとの思いで作られております。

創刊号の執筆者は主宰の榊原けい、広報の竹宮猿麿、そして私の3人なのですが、先日発行したvol.3からは多塩卵が加わり、次号のvol.4ではゲスト寄稿者としてさらに2名ほど増える予定です。

こうして見ると徐々に規模が拡大しているように見えますし、実際、巻を追うごとに掲載作品も良くなってはいるものの、本自体のデザインはいまだに素人まるだしで改良の余地があるのです。たとえば、表紙、目次、扉絵、奥付などと議論のポイントは枚挙にいとまがないわけですが、今回は作品のレイアウトの方針を話し合いました。

おおまかな流れとして、美意識を優先させる小説などの文学作品と、情報の伝達を優先する評論は目的が異なる以上、それぞれのレイアウトを考案した方が良いのではないかという前提がまず決まります。それを踏まえ、評論は情報を見開きで一瞥できた方が良いやら、小説と散文はvol.2で決めた1段組のレイアウトを基本線にした方が良いやらと、ほんの少し具体的な方針まで固まったわけです。

結局、本日の話し合いを踏まえて榊原が実作したものを、メンバー全員で調整するという結論に落ち着きました。実はこのリアルタイム編集、毎号なにかしらでやってる方法でして(表紙など)、おしゃれの欠片もないくせにミリ単位の調整にこだわり、容赦なくリテイクを突きつける我々にとっては効率が良いのです。

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ここまでは良いとして、読者にとって謎なのはおそらく「あいみょん」ではないでしょうか。

ご存知ない方に向けて簡単に説明しておきますと、あいみょんは1995年生まれのシンガーソングライターで、2015年に「貴方解剖純愛歌〜死ね〜」をインディーズデビューした後も作品のリリースを重ね、2017年には「君はロックを聞かない」でFM Q LEAGUE AWARD 2017を受賞するなど、順調にミュージシャンとして進化し続けています。若者を中心に支持を集めているとテレビで観ましたが、かくいう私も少し前から通勤中に曲を聴いたりMVを観たりしているひとりです。

あいみょん - Wikipedia

 

なぜに会議で彼女の話をしたかというと、若者向けの音楽をちかごろ聴いているらしい広報担当の竹宮が彼女を好みだと言っているのをtwitterで見て、彼と音楽の好みが一致するのはかなり珍しいものですから、嬉しくなって話題を振ったからです。まあ、実際に彼とした話はうろおぼえなので本記事では書きませんが(笑)、その代わりにあいみょんの魅力を私なりに書かせて頂きます。

上に貼り付けた「君はロックを聞かない」という曲は女子(「君」)への片想いを歌った曲です……と書けば、世に溢れる有象無象のラブソングと変わらないように見えますけども、この曲の真髄はふたりのこころの遠さを「ロック」という音楽ジャンルで表している点にこそあります。詩に物語は特になく、寂しそうな「君」を励まそうと自身の好きなロック音楽を聴かせるという一幕だけで構成されています。さりとても、彼女はどうやらロックが好きではないらしく、一見なんでもなさそうな嗜好の違いに語り手は気を揉みます。

君はロックなんか聴かないと思いながら

少しでも僕に近づいてほしくて

ロックなんか聴かないと思うけれども

僕はこんな歌であんな歌で 恋を乗り越えてきた

クラシック、演歌、ロック、ポップス、ヒップホップ、アニソンなどなど、音楽のジャンルはまさしく数えられないほどあり、本人の気質や、家庭環境、あるいは周囲の人間などによりどれを好むか変わります。

とりわけ、情報の取捨選択が個人にゆだねられている現在において、好きでもなければ興味もないジャンルの曲をみずから聴くひとは少ないでしょう。たかが好みの違いと侮るなかれ、たったそれだけの違いが深い断絶を生みかねないのです。

ところで、本曲の主要モチーフである「ロック」そのものはどのように表現されているのでしょう。

「埃まみれ ドーナツ盤には あの日の夢が踊る」とあるように、あくまで古さや在りし日の象徴として描かれています。2017年にはヒップホップ/R&Bがロックの売り上げを越えましたし、2005年に発表されたポルノグラフィティの「プッシュプレイ」という曲で「かつてロックが発明された時代 混沌とした世界が敵で 勝負の見えてきた現代は 立ちはだかる壁も探せない」と歌われているように、革新や新機軸の象徴としてのロックは終わっていると認識されてもいるので、過去の遺物として見做すのはきっと正しいのだと思います。そのうえで、「(君は)ロックなんか聴かないと思うけれども」などと逆説を多用してロックへの愛着を匂わせるのですが、気になる彼女が同意を得られないのを承知でロックへの愛情を歌うさまは、好意を素直にぶつけるラブソングというよりも、甲乙つけがたいふたつの想いを秤にかけて葛藤しているように見え、胸が締め付けられる気分です。

 

史上初!!2017年はヒップホップ/R&Bが、ロックより売れた!コーチェラのヘッドライナーからロック枠が消えた理由か?!|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

 

「君はロックを聞かない」のMVがあえてひとむかし前の機材で撮影されていたり、80年代から90年代にかけての流行語をふんだんに取り入れた「ナウなヤングにバカウケするのは当たり前だのクラッ歌」を発表したりしているので、過去に対する意識や愛着がそもそも強いアーティストだと言えるのかもしれません。もしくは、ここ2〜3年の間にインスタントカメラが若者に流行っているように、世紀末の文化と向き合う時期が丁度いまなのかもしれない、とも。

 

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