抒情歌

2017年に設立した同人サークル抒情歌のブログです。主に文学フリマで『グラティア』という文芸同人誌を頒布しています。

琉球文学 - 島尾敏雄『琉球文学論』第2章

文=秋津燈太郎

 

第二章 琉球語について

 

1.琉球弧の範囲

琉球列島の範囲としては奄美、沖縄、宮古八重山の島々と限定することができるが、それらの島々の呼称については一考の余地がある。たとえば、「琉球」という呼び名は中国側からの呼称であるゆえに現地の人々に避けられているし、「南西諸島」では作戦用語のようなものものしさが出てしまう。そのなかでとりわけ妥当と思えるのは、日本列島が弧状の島嶼から成立していることに由来する「琉球弧」である。特定の国からの呼び名でもなければ、特殊な意味が込められているわけでもなく、あくまで地形にを基に考えられた呼称なので、客観性が高いと思われる(加計呂麻島をはじめとして、島ごとに自称と他称のことなる事実もあるので)。

 

2.琉球語と日本語

琉球語と日本語は起源が同じだと言われており、日本語の古い言葉、つまり、万葉あたりの言葉がなごりとして表れていると見做すむきもあるのだが、言語の変化の速度という点も考慮するならば、それよりもはるか昔に端を発しているとも言える。

言語学者の服部四郎氏は言語は一定の速度で変化すると主張している。島尾氏自体にもその仮説は実感を伴っているらしく、たとえば、若い女性の発言を耳にすると、ここ2、30年の間に「じゃ」の発音が「ざ」に変化しているように聞こえるとのこと。

そのような仮説のもとで言語変化の速度を計算してみると、1450年ほど前の奈良時代に日本語(京都方言)と琉球語琉球方言)が分離したと推測できるものの、それ以前の、五千年から一万年とも言われる縄文時代の長い共同体験を無視することはできない。分離以前の時間が非常に長かったため、どうしても日本語とのにかよいを感じざるを得ないというわけである。